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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第125章 美香のPartTimeLove23

エレベーターで4階に上がり、薄暗い廊下を進み402の数字を見つけて、そのドアの前に立った。
次はこのドアをノックすればいいんだ。
アタシは胸の前で軽く拳を握った。
あとは、この拳を前に出せばいいんだ。

なのに、体が固まってしまって手が動かない。

やると決めたのに。

大丈夫だと自分で納得したはずなのに。

怖じ気づいた?

いよいよ最後のドアまで来て、何かが強く抵抗している?

でも、それはアタシの中の誰でもない。

アタシ自身だった。

このドアの向こうに行けば、もう後戻りはできないだろう。

でも、いつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。

アタシは握った拳を開いてみた。
中にびっしょり汗を握っていた。

そしてその手は重い鉛の様に下がっていった。

「ギルティ?いいんだよね?アタシ大丈夫だよね?ちゃんと見守っててね。」
アタシは目をつぶり、自分の内の奥にある大きくて深い湖に問いかけた。それがギルティのイメージだった。
ギルティや、他のみんなからは何の返事も無かった。
返事が無いということは問題無いということではないか。
と思った時、一度下ろしたはずの右手がゆっくり上がってきた。
アタシは小さく深呼吸をしてドアをノックした。

内側からロックが外れる音がして、ドアが開いた。

そこにおじさんが立っていて、ちょうどアタシと向かいあった。
目の前にいるお客さんは、普通のおじさん。アタシにはそういう判断しかできなかった。年齢だって全然わからない。父よりは若いかも知れない。
若いコはみんな同じに見える的なことを昔、言われたことがあるけど、アタシには、おじさんはみな同じおじさんに見える。

「大丈夫だよ。怖くないから、中に入って」

お客さんがそう言った。

その声は優しそうな響きがあった。そういえば中学の頃の社会の先生に似てるかも。とアタシは思った。
その先生は、いつもとてもおだやかな口調で話す先生でアタシは嫌いではなかった。特に好きだというのでもなかったけど。
ただ、そんな風に思うと、少し気が楽になった。

先に部屋の中に入って行ったお客さんは、ソファーに座りアタシを待つように見ていた。

アタシがゆっくり中に入って行くと、お客さんは、まるでべったりと体にまとわりつくような視線でアタシを眺めた。

今、アタシは商品として品定めされたんだと思った。

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