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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第84章 ドライバーでスカウトマンで①

車の運転に慣れてきたボクは早速ドライバーの仕事をやることになった。
さすがにいきなりは無理だということで、自動車教習所のように助手席の横のりがついてくれた。

「やることは全然難しくはないけど慣れるまでは神経を使う仕事やで」

そう言ってボクの肩をポンと叩いたのがサブローさんだった。

ボビーさんよりもまだかなり年上のようだ。
白髪混じりの短髪。深い皺に隠れそうな細い目は、おだやかで優しい人柄を表していた。

ケンさんはサブロージィと呼んでいた。
サブローさんは「ラピスラズリ」に来るまえにも他のデリヘルのドライバーをやっていて、ドライバー歴はもう5年以上になるそうだ。

ドライバーの仕事というのは、事務所の指示で女の子をお客さんの自宅や利用のホテルまで送迎することだ。

「安全かつ敏速に」
サブローさんはそういう言い方をした。

「じゃあよく走るコースを覚えよか。まずは三宮の駅。そこから新神戸のホテル街のルートを走ろう」

サブローさんはしっかりと、でもとても優しさが伝わる口調でボクに言った。

「今はナビがあるから道に迷うことは無くなったけど、ナビをあてにしてたら遠回りばかりさせられるから、最短ルートを早く覚えて走るんが大事や」

サブローさんはナビの画面を指でトントン叩きながらそう言った。

「でも、そういうのは慣れれば誰でもできるから大丈夫や。この仕事で気をつけないといけないのは…乗せてるのは荷物やなくてお姫様やということや」

お姫様。もちろん女の子たちのことを言っている。
サブローさんが言うには、女の子に対してはとにかく神経をすり減らすくらい使って接することだと。会話は当然敬語。それは18の女の子にだって、もちろん敬語。
一切の私語は厳禁。
女の子がきいてきたことだけに答える。
女の子に嫌われるドライバーは喋り過ぎるドライバーだという。特に自慢話と女の子に仕事の内容などきくようなドライバーが嫌われる。嫌われると女の子はすぐさま、あのドライバーには乗りたく無いと事務所に言う。そういう、いわゆるNGが増えるとこの仕事はできなくなるんだと言った。
「女の子たちは多かれ少なかれストレス抱えてこの仕事をやってるから、その捌け口がオレらドライバーやと思っててちょうどや」

かなりドキリとさせられる発言だったがサブローさんは軽く笑いながら言った。

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