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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第85章 ドライバーでスカウトマンで②

「普段は大人しくて可愛い女の子が、こっちの態度や言葉一つでブチ切れて暴れることも珍しくないんや」
ボクは暴れるというのが、どの程度のことなのか気にはなったけど正直それをきくのが少し怖かったので黙った。とにかくは女の子を怒らせない。怒り出しても我慢しろと言うことなんだろう。

「デリヘルのドライバーの仕事やると、店の女の子といいことがあるんやないかって入ってくるドライバーが多いもんやけど、そんなヤツらは現実を知って3日もたたず辞めていくんや」
ボクはサブローさんの話に頷きながらハンドルを握り前を向き、車を走らせていた。

「これは当たり前のことやけど、一応ちゃんと教えててな、とケンさんに言われていることがあるんや」

「はい。なんでしょうか?」

サブローさんの口調が少し変わったので、一瞬チラリとサブローさんの顔に目を向けて答えた。優しかった目がやや厳しくなっている気がした。

車が三宮駅のロータリーに入って来たので、ボクは道の端に寄せて停めた。

サブローさんは右手の手のひらを下にして数回押さえるようにして、このまま停めるように合図してきた。
「女の子と個人的な関係になったらアカン。それくらいはわかるやんな?」

「はい。もちろんです。」
あぁ。口調が変わったのはそういうことだったのか。心配しなくてもボクにはそれは無いな。と自分で思った。こういう仕事をしている女の子たちならボクの退屈さはすぐに気づくだろう。だいたいボクがここの女の子たちを個人的に相手などできるわくが無いと思った。

「もし、女の子たちからイツキ君に言い寄って来たとしても、それはしっかり断らないとアカンのやで」

サブローさんはボクの目をしっかり見て言った。

「女の子らは寂しい思いをしてるコも多いんや。長い間、車で一緒にいて相談でものってもらえれば感情移入することもけっこうあるもんなんや」

「はい。そういうことがボクにあるとは自分は思えないんですが」

「はははは。そっかそういうことか。」

サブローさんが本気で楽しそうに笑った。

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