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そんな想い

第1章 俺の気持ち

支払の間、タクシー待ってる間、タクシーの中、松岡さんはずっと同じことを言ってた。

「あの日、頑張ってよかったよ」

「片山のおかげだよ」

「この仕事取れて、マジで嬉しいよ」

だいたいこれを、数分おきに繰り返す。

それを俺は笑って「はいはい」と聞いてた。



松岡さんのマンションに着いた。

俺はタクシーの運転手に、ちょっと待っててほしいと言って、松岡さんを部屋に運んだ。

もはや木偶人形のようで、まったく力のない松岡さん。

ポケットまさぐって鍵を出し、なんとか玄関に投げ入れる。

これをチャンスと襲うこともできるんだろう。

けど、俺はそこまでする気にはなれなかった。

とはいえ、そのまま帰るのも…だ。

「松岡さん」

「ん?」

「明日11時に打ち合わせですよ」

「了解です!」

「それから、俺、あなたのこと好きですよ」

「了解です!」


チュっ


今は、これで我慢しておこうと思う。


俺の思いは、こんなキスでも十分震えるんだ。


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