『幼なじみ』
第44章 忘却
すると突然・・・
壁越しから・・・
パタパタと・・・
忙しない足音が・・・
病室内に響き渡り・・・
記憶を無くした
拓弥を目の前に・・・
何も出来ないまま・・・
スッカリ・・・
脱け殻になってしまった
あたしが・・・
ただぼんやりと・・・
後ろを振り返った矢先・・・
勢いよく・・・
扉が開いたかと思うと・・・
タイミング良く・・・
あの優しい・・・
年配の看護師が・・・
息を弾ませ・・・
此方に近付きざまに・・・
歓喜の声を・・・
掛けて来る・・・。
「あー良かった・・・
貴女・・・ここに居たのね・・・?
ベッドに居ないから・・・
ビックリしちゃったわ・・・?
疲れたでしょ・・・
大丈夫・・・?
そう・・・!
タクヤさん・・・
さっき・・・
目が醒めたんだけど・・・
お話・・・出来たかしら・・・?」
拓弥が横たわる・・・
ベッドの淵で・・・
床に膝を着いたまま・・・
深い愛情に満ちた
看護師の・・・
穏やかな微笑みを・・・
見つめた途端・・・
今まで・・・
ピンと張り詰めていた
感情が・・・
サーッと・・・
溶け出して行き・・・
母親が昔・・・
幼稚園に迎えに来て
くれたような・・・
暖かな安心感に
包まれたあたしは・・・
またもや・・・
涙腺が弛み始め・・・
涙ぐんでしまう・・・。
「グスッ・・・
看護婦さん・・・
グスッ・・・
そ・・・それが・・・
た・・・拓弥・・・
記憶が・・・無いみたい・・・
なんです・・・
あ・・・あたし・・・
どうすれば・・・
良い・・・ですか・・・?
グスッ・・・
拓弥・・・一生・・・
このまま・・・
なんです・・・か・・・?」
半ベソをかきながら
途方に暮れる
あたしの姿を・・・
目の当たりにし・・・
すぐさま状況を・・・
飲み込んでくれたの
だろう・・・
みるみるうちに・・・
険しい表情を
浮かべた看護師が・・・
冷静を装いながら・・・
淡々と口を開いた・・・。