優しくしないで
第15章 着色の一歩
俺は…カットマネキンの隣にあった椅子に…
ゆっくり座った…
「はっ…ハハハ…
桃さん…凄いな……」
桃さんは…ああ見えて…
人を見抜く力がある…
俺と…留美ちゃんが…
同じ……“無色”…
桃さんには…
同じに見えた…
しかし…桃さんに…
声をかけてもらった俺は…
そこから…少しだが…
色が付きはじめた
俺の、背負えなかった…惨めな過去を…
だらし無く伸びきった毛先と共に…
断絶してくれた…
目にかかっていた髪が無くなり…
視界が広がると…
見える世界が…
広く感じた…
俺は…大学を辞め…
美容、理容の専門学校に通い直した…
手話も…独学で取得した
桃さんに出会って…
今…
留美ちゃんと出会って…
俺は…“無色”から…
変われた……
留美ちゃんも…変われる…
色がつく…子…なんだよ…
だから…声をかけたんだろ?
桃さん……