優しくしないで
第16章 私の一部
私は、仁さんがフロアを片付けているあいだに…
ソファに座り…雑誌が置かれたテーブルに目をやった…
そこには…メモがあった…
『仁さん…このメモ…』
「あ〜…大さんが、お客様に使ったメモだ…」
そこには、髪型の注文や、雑談の類が書いてあった…
「…今日、耳の不十なお客様が来たんだ。
大さんに代わって…手話で対応出来る俺が、カットしたんだけど……」
『…仁さん…手話…出来るんですか?』
「あ…まぁ、独学だけど…ちゃんと通じてたよ」
『そう…なんだ…』
「さっ…片付いた。
裏から出よう、送っていくから」
そう言うと、仁さんに手を引かれ…
一緒に裏口から店を出た…
外は…暗く…
少し寒く感じた…
夏が…終わった……
そんな風が…
短くなった髪から除く首や頬を撫でる…
「…夏…終わったね…」
『…うん……』
「寒くない?首とか…」
『…風が……気持ちいい…』
仁さんは…
「そっか」っと言い微笑む…
手は…繋いだまま……
仁さん…
…暖かいよ…
仁さん…
優しさが…伝わる…
太一……
少しだけ…このままで…
いいかな…?