甘すぎて気絶
第8章 スーパーヤギヌマ
蛍の光がうっすらと、でも確かに鳴り響く店内。
閉店間際の値下げ品を狙った主婦や中年の男性客が
惣菜コーナーからレジへ流れ込んでいる。
住宅街への上り坂の麓にあるスーパーヤギヌマは、
小規模なスーパーながら手作りのお惣菜のおいしさと
閉店間際の値引きの良さで周辺の住民から重宝されている。
--ピッ--
「108円、324円、…」
黙々と商品をスキャンして、地味に混むこの時間を
なんとかこなす。
これが終われば閉店、閉店、
時間はもう閉店時間の22時を少しすぎている
はやく、はやく、…
あたしも無心でレジを打つ
食べ盛りの学生さんのいる親御さんなんかが
次の日のお弁当のおかずに、と
この時間を狙ってきてたりするから
なかなかのお客さんの数。
確かに、お惣菜コーナーの鈴木さんが作るお惣菜は
ほんとにほんとに美味しい
あたしも鈴木さんのメンチが大好物で
休憩時間にこっそりもらいに行ったりするほど
でも。でもーー!
早く帰ってドラマ見たいのにー!
「お願いします。」
ぽそっと低い声とともにレジに半値近くに値下げされたお弁当が置かれた
あ、このお客さん…!
「はい、いらっしゃいませ、
お弁当1点で280円です」
500円玉を受け取りおつりを返す。
「レシート、いいっす」
毎日決まってこの時間にくる男性のお客さん。
作業着を着て、頭にはタオル。
半額のお弁当を買って帰る毎日。
独身かなあ、
毎日スーパーのお弁当っていうのも、なんだかなぁ。
ひょろっと細くてちょっと疲れた後ろ姿を見送りながら
うーむ、と小さく唸る。
若いのに、ちゃんと食べなきゃ倒れちゃうよー
あたしとタメくらいかな?
いや、ちょい下??
お客様と店員としてのやり取り以外したことないし
別に何ってわけじゃないんだけど
こうも毎日お弁当を買って行く姿を見ると
なんとなく体調の心配をしてしまう
鈴木さんのお弁当は栄養バランスもいいと思うけど
なんとなく、ね、
お家であったかいご飯を食べられるのと
スーパーの値引きお弁当じゃ
気持ち的にも違うよね。