
甘すぎて気絶
第6章 オオカミさんとウサギちゃん
「お‥‥おわんな‥‥‥」
時計の針は日付を跨ぐ寸前
まだ会社に残っている人はいるのかな
今日は顔馴染みの警備員さんが見回りにくる前に帰りたい
懸命にキーボードをタイプするけど
いつも以上に進まない気がする
甘い紅茶はいつの間にかコーヒーに変わって
もう何杯目かすら分からない
「はあぁぁ。
もー。手書きで仕事したいよーっ!!」
涙ぐみながらうなだれていると
ガチャっと庶務課の入り口が開く音がした
「まだ終わんねーの」
振り返ると忌まわしき黒澤先輩の姿が
思わずぷいっとそっぽを向きながらお疲れ様です、とだけ返した
先輩はあたしの無愛想な態度にまるで覚えがないような顔でデスクに近づいてきた
「代わってやろうか」
無表情で救いの手を差し伸べられるがほぼ面識が無いうえに
さっきのこともあって素直甘えられない
「いや、でも‥」
あんな風に言われたのに先輩に頼ったらすぐ人に頼ろうとする甘ったれだと思われるかも
それがなんだかすごく悔しい
あー、とかうー、とか言葉を濁してなかなか頷かないあたしに
「終わんないんだろ。代わってやるから」
先輩がさっきより優しく言うもんだから思わず頷いてしまった
