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雨の人

第5章 触れるようなキス

駐車場から
俺の部屋まで

ゆきちゃんと
手をつないで歩いた


階段を二階まで上がり
俺は部屋の鍵を開ける



「ゆきちゃん、どうぞ」



「うん、お邪魔します」



「ここ、座ってて」



「うん。」



ゆきちゃんは
少し緊張した様子で口数が少なく

俺が指さした
二人掛けのソファーに
ひとりチョコンと座っていた



俺は
さっき買った
ホットココアの缶を
ゆきちゃんに渡しながら


ゆきちゃんの隣に座った



「はい、ココア」



「うん、ありがとう」



「あの~…」



「なに?ゆきちゃん?」



「もう、いい?」



「え?何が?」



「もう、渡してもいい?」




「あはは(笑)

チョコのことかな?」




「……」




ゆきちゃんは、
黙ってコクっとうなずいた



「もう、いいよっ

はい、どうぞ!」



体をゆきちゃんの方へ向けて

俺は両手を出した



「川村さん、あの…
おいしくないかもしれないけど

これ、チョコレート…」



そう言って、
ずっと大事そうに持っていた
小さな紙袋を
俺に渡してくれた



「ありがとう、ゆきちゃん!

俺、本当にうれしい!

ありがと~~」



俺は、両手で
ゆきちゃんを
しっかり抱きしめた。


ゆきちゃんを抱きしめたのは


今日がはじめてだ。



ゆきちゃんは

とっても小さな声で

『あっ』と言ったけど



俺の腕の中でじっとしていた。





ゆきちゃんは



少し甘い香りがした。

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