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雨の人

第8章 ゆきの浴衣

俺たちは
予定より少し遅れて
無事に旅館に到着した


部屋に通され
二人きりになると
緊張しているのか
ゆきは、落ち着かない様子だ


俺が部屋の中を
ウロウロしながら
何が何処にあるか
チェックしてると

ゆきは
座布団に座り
お茶をいれてくれた



「あきひろくん、
お茶…入れたよ。

運転、お疲れさま」




「あ、ありがと!」



と言ったけど
お茶が出された
ゆきの向い側には座らず

ゆきの後ろに座り

ゆきを
背中から抱きしめた





「あ~・・・・



落ち着く~…

俺、ゆきを抱きしめると

ホッとするんだよ……」



しばらくゆきに癒されていると

ゆきは小さな声で



「ゆきもだよ」



と言ってくれた





「緊張してたろ?

もう、落ち着いた?」



と、ゆきの後ろから
話しかけると


ゆきは小さくうなずいて

クスッと笑った




「川村さんには、なんでも

わかっちゃうんだね」って。




それから

お茶を飲みながら

旅館のパンフレットを

二人でながめた




この旅館には

家族風呂があった




でもゆきは

その話題を口にしない



この旅館に決めてからずっと。



俺が入ろうって誘ったら、

うんって言っただろうか…




ゆきは多分恥ずかしいんだよな



分かってるよ

だから、俺も言わなかったろ?



家族風呂のこと、一度も。






俺は、入りたかったけどな

ゆきと。





仕方なく

二人別々の温泉に入り

食事を済ませ

部屋へと向かった




俺もゆきも

旅館の浴衣

廊下に誰も見えなくなって

俺は、ゆきと手をつないだ



すると

ニコッとゆきが笑い

俺の顔を見上げた




ぎゅって、手をにぎったら




ゆきも

ぎゅって握り返してきた




クスッと笑いながら。




俺たちは

部屋まで

それを何度も繰り返した



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