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初の恋、終の愛

第2章 諦めと夢

 極め付きはこの二人の手代。二人ともこの世の者と思えないくらい格好がいいではないか。悔しいけれど春助も辰五郎に負けないくらい男前だ。
 二人が店先に立っているだけで客が寄ってくる。
 辰五郎は美形で美しく春助は男らしい格好よさ。それぞれにファンがついていて二人に差し入れやら恋文やらを渡すついでに薬を買っていくものだから結構稼ぐことができているようだ。
 扇田屋がこんな大店になったのはもしかしたらこの手代たちのおかげなのかもしれない。
「辰五郎。こんなぼやっとした奴を寄越す間抜けな家なんて存在しない」
「確かに」
「だから二人とも、柚子さんは未来から来たんだって言ってるじゃないか」
 若だんなが呑気な様子で言う。
「ああ、そうだった。なんだっけ200年先から来たんだったかな」
 と辰五郎が笑えば春助も唇を緩ませる。
「200年後はもしかすると今よりも退化しているのかもしれないな。あんなに読み書きが出来ないんじゃな」
「それは」
 言葉に詰まる。江戸時代の人たち、特にきちんと教育を受けた人たちは本当に読み書きができる。しかも達筆で何を書いているのかさっぱり分からない。
 数学だって算術とか言って意味の分からない文章問題が存在する。まずこの時代の単位を分からないから何も解けない。情けない。
「そんな風に柚子さんを問い詰めてはいけないよ。ああ、そうだ。柚子さん、今日は宵祭りがあるから一緒に行こう」
「え! お祭り?」
 お祭りと聞いて心が弾む。
 しかも江戸時代のお祭り。祭り好きとしては行っておきたい。行っておきたいもなにももしかするとおばあちゃんになるまで毎年行くことになるかもしれないけれど……。
「あら。機嫌が良くなったね。じゃあ、今夜は」
「なりませんよ。若だんな」
 辰五郎が厳しい声を出す。
「どうしてだい」
「人ごみの中を歩くと疲れてしまわれるではないですか」
「少しぐらい大丈夫だよ」
 若だんなもよっぽど祭りに行きたいのかいつもならすぐに言うことをきくのに今回は引かない。
 何度か強情なやりとりがあって「じゃあ、もう今日から朝餉以外は口にしないよ」という若だんなの脅しで辰五郎は折れた。

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