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初の恋、終の愛

第3章 ほろ酔い

「すまないね。いつも皆が辛く当たって」
 若だんなと二人きりになると声を低くくして謝られた。私は着せてもらった良い着物を汚さないように慎重に甘い液体をすすっていた。なんという名前か忘れたけれど美味しい。
「そんなそんな。拾ってもらっただけでどれだけありがたいか。みなさんには感謝してますよ」
「柚子さんは本当に優しいいい娘さんだね。きっと素晴らしい親御さんに育てられたんだろうね。会えなくて寂しくはないかい?」
 祭りでにぎわう人たちは現代とあまり変わらないように見えた。幸せそうに出店を冷やかす人たちでいっぱいだ。
 私は親を思い出してみた。
「寂しい……ですね。でも、ここに来るずっと前から私は二人と別れたままだったから今更どうってことないです」
「それはどういう……」
「二人とも、私がまだ小さい頃に天国に行っちゃった」
 若だんなが息を呑んだ。
「だから、今更悲しいことなんて何もないんです。変な心配は無用ってことですよ」
「柚子さん……」
「そん暗い顔しないでください。お体に触りますよ」
 若だんな少し黙ってからそっと私の手を取ったとき、。そのままぎゅうっと握りしめた。
 心臓が跳ねた。
「わ、わわわかだんな?」
「柚子さん。好きなだけ扇田屋にいてくれて構わないからね。それに他の者も私も本当の家の者だと思っておくれ」
 そんなことより、握られた手が気になって仕方ない。
「は、はい。わかりました」
「本当だよ?」
 こくこくと頷く。そろそろ手を離してもらいたい。
 そう思っていた時、無理矢理何者かに手を叩かれた。
「きゃあっ」
「柚子さん!」
 若だんなが驚いて転びそうになっている私を支えようと腕を伸ばした。しかし届かない。
 履きなれない下駄も傾いて地面に投げ出されてしまいそうになった時、逞しい腕が伸びてきて私の体を支えた。
「若だんなに手を出そうなんて100年早いわ」
「春助!」
 不機嫌な顔をした春助が私の腰を腕でがっちりと支えていた。
(あ、どうしよ。腰が抜けたみたい)
「柚子さん大丈夫かい?」
「え、あ……のその」
「間抜け」
 低くぶっきらぼうな声で耳元で呟かれるとすぐに体がふわりと持ち上がった。目の前に春助の喉仏がある。
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