
初の恋、終の愛
第2章 諦めと夢
最後に若だんな体をよじってこちらを向いてにこりと笑った。
(あれ。なんか寂しい。なんだろ、これ)
「柚子の作るものは本当に美味しいなあ。ねえ、春助」
裕福な扇田屋は材料もなんでもそろえられるからこそなんでも美味しく作れてしまう。おばあちゃんに和食を習っていてよかった。でも、そろそろピザとか担々麺とか食べたいと思う。
ここにきて10日が経った。帰れる様子はないし、まだここが夢だと思っているのも事実だ。
「ん。食えんこともないです」
「まあ、柚子の使い道があって良かった」
辰五郎まで嫌味な口を叩く。この人たちはどれだけ若だんなを愛しているんだと呆れる。
若だんなは細い。私と同じくらいの腕の太さ。いや、もしかすると私より細いかもしれないと思ってしまうくらい細い。
こんな裕福な家に生まれているのに、体つきだけが弱弱しい。雰囲気も優しくて穏やかで顔つきも上品で大店の若だんならしいのに、着物から出ている腕や首がひょろりと細長く今にも折れてしまいそうだ。
その原因は若だんなの体質にあるのだという。
食事をしたがらない。食事の必要性を感じない。はたまた食事が苦痛といった具合だからついうっかり周りの者が目を離すと若だんなは枝のように細くなってしまう。
目を離すとやせ細るなんて聞いたこともない。
「二人は憎い口をきくけれど、柚子さんには感謝しているんだよ。わかっておくれ」h
「そうでしょうか。まあ、私は若だんなが食べてくれるだけでいいんですけど」
若だんなの世話役の二人をさらに煽るように若だんなに向かってほほ笑むと若だんなもほほ笑み返してくれた。ため息の出るような美しい笑顔だ。
「お前、本当にどっかの回し者じゃないだろうね。扇田屋は江戸で有名な大きな店だ。若だんなに気に入られればどんな身分でも扇田屋の若女将になれる。不思議なことじゃない」
辰五郎が切れ長の涼しい目で私を睨む。
こんなイケメンに睨まれたらきゃーきゃー言う女子はいくらでもいるだろう。顔がいいということは恐ろしいことだと思う。
それになぜだか若だんなの周りには美男美女しかいない。奥さんも旦那さんも絵に描いたような美男美女カップルだし、女中や番頭さんも使いの小僧までもが整った顔立ちだ。
(あれ。なんか寂しい。なんだろ、これ)
「柚子の作るものは本当に美味しいなあ。ねえ、春助」
裕福な扇田屋は材料もなんでもそろえられるからこそなんでも美味しく作れてしまう。おばあちゃんに和食を習っていてよかった。でも、そろそろピザとか担々麺とか食べたいと思う。
ここにきて10日が経った。帰れる様子はないし、まだここが夢だと思っているのも事実だ。
「ん。食えんこともないです」
「まあ、柚子の使い道があって良かった」
辰五郎まで嫌味な口を叩く。この人たちはどれだけ若だんなを愛しているんだと呆れる。
若だんなは細い。私と同じくらいの腕の太さ。いや、もしかすると私より細いかもしれないと思ってしまうくらい細い。
こんな裕福な家に生まれているのに、体つきだけが弱弱しい。雰囲気も優しくて穏やかで顔つきも上品で大店の若だんならしいのに、着物から出ている腕や首がひょろりと細長く今にも折れてしまいそうだ。
その原因は若だんなの体質にあるのだという。
食事をしたがらない。食事の必要性を感じない。はたまた食事が苦痛といった具合だからついうっかり周りの者が目を離すと若だんなは枝のように細くなってしまう。
目を離すとやせ細るなんて聞いたこともない。
「二人は憎い口をきくけれど、柚子さんには感謝しているんだよ。わかっておくれ」h
「そうでしょうか。まあ、私は若だんなが食べてくれるだけでいいんですけど」
若だんなの世話役の二人をさらに煽るように若だんなに向かってほほ笑むと若だんなもほほ笑み返してくれた。ため息の出るような美しい笑顔だ。
「お前、本当にどっかの回し者じゃないだろうね。扇田屋は江戸で有名な大きな店だ。若だんなに気に入られればどんな身分でも扇田屋の若女将になれる。不思議なことじゃない」
辰五郎が切れ長の涼しい目で私を睨む。
こんなイケメンに睨まれたらきゃーきゃー言う女子はいくらでもいるだろう。顔がいいということは恐ろしいことだと思う。
それになぜだか若だんなの周りには美男美女しかいない。奥さんも旦那さんも絵に描いたような美男美女カップルだし、女中や番頭さんも使いの小僧までもが整った顔立ちだ。
