
売られ少女
第3章 ケントという少年
ケントは書き物の手を止めて、私をちらりと見た。
「飼い主に向かって『ねえ』とは何だ。家畜の分際で」
「…あなたのお母さんのこと、聞いたわ」
ケントの眉がぴくりと動いた。
怒られる…?
そう思ったが、ゆっくりと顔を前に向け、視線を机の上に落とした。
私は続けた。
「…実は、私もお母さんを亡くしているの。3年前にね」
ケントは何も反応しない。
「お母さんを亡くすのって、とても悲しいことだわ。自分を支えていたものが無くなってしまうような、心にぽっかり穴が空いてしまうような…。だから…だからあなたの気持ちも、全てではないけれど、分かるところもあるわ」
ケントは黙っていた。
時が止まっているのではないかと思うほど、微動だにしなかった。
そして、しばらく経って、ぽつりとつぶやいた。
「俺のお母様と、お前の母親を一緒にするんじゃない」
その声に、私を辱めるときの鋭さはなかった。
