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月琴~つきのこと~

第2章 第一話【宵の月】 二

 この胸の奥底に燃え盛る激しい恋の焔をひたすら抑え、嘉平太と一緒になるか。それとも、親を、家を棄て皆を哀しませても、ただ一人の男と共に行く道を選ぶか。
 嘉平太と夫婦になれば、それなりの平穏な暮らしを送ることはできる。だが、小文は生きながら死んでしまうだろう。心を殺し、生ける美しき屍と化してしまうに相違ない。
 小文の心は春の荒れ狂う嵐に翻弄される花びらのように、激しく揺れていた。

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