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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 信濃屋の裏庭には巨(おお)きな桜の樹がひっそりと佇んでいる。今はまだちらほらと花をつけ始めたばかりだが、この時季、薄紅色の花をたわわにつけたその姿は、息を呑むほど美しい。奥まった庭の片隅にある桜とて、家族はむろん使用人でさえ滅多と訪れることはないのだが、桜の樹はそんなことなど頓着なく花を咲かせている。

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