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月琴~つきのこと~

第2章 第一話【宵の月】 二

 春の夕暮れの陽差しが障子戸を通して差し込む部屋の中で、小文は文机に向かい治助への手紙をしたためた。
―決行は今夜。
 それは治助が信濃屋を出された二日後のことだった。
 小文は治助と桜の樹の下で初めてめぐり逢った日のことを思った。あれからまだ、たったの十日余りしか経っていない。しかし、小文の運命は大きく変わった。あの日が随分と昔のように思える。

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