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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第10章 第三話【波の音】 衝撃の真実

 ゆえに幸は逃げようと思えば、いつでも逃げることができる。だが、帰る場所を失った幸が逃げるはずもなかった。
 幸が薄い夜具の中で寝返りを打った時、表の方で人の声がした。
「おい、亮平、おるか」
 その声に、幸はのろのろと布団から出た。しどけなく乱れたままの寝間着姿であったが、そんなことはどうでも良かった。おざなりに開いた胸許をかき合わせ、ほどけかけた帯を直すと、狭い叩三土に降り草履を突っかける。

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