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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第2章 第一話【空の記憶】~運命の嵐~

 中には風が吹き、船が揺れる度に涙ぐむ婦人もいて、念仏を唱える年輩者までいる有り様である。誰もが皆、やり場のない焦燥感と不安を抱えていた。あたかもその乗客たちの想いがどす黒い塊となり、荒れ狂う嵐に翻弄される船を内側から浸食してゆくようでもある。
 時折、船長と思しき男性や船乗りが姿を見せ、不安げな乗客たちの肩を叩き、何事かを囁いてゆく。

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