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近くて遠い

第22章 距離

────────…

「真希様、やりすぎです。」


大量の洗濯物を抱えて前方が見えずふらふらと歩いていると、急に荷物が軽くなったかと思ったら、聞き慣れた老人の声がした。


「古畑さん…」



私から洗濯物の半分を奪うとようやく見えた立派な髭の顔に少し安堵した。



「無理をされてはいけません。」


「むっ、無理なんかしてません。」


光瑠さんと最後に顔を合わせてから三日が過ぎようとしていた。


気を紛らしていないと、
庭に行ってしまいそうな自分が怖くて…


私は色んな仕事をしていた。


「してますよ。
真希様、他のメイドから仕事を奪ってはいけません。」


そう言って古畑さんは遠くで歩いていたメイドさんを呼びつけて、私の持っている洗濯物を運ばせようとする。



「そっ、そんな…」


奪われた仕事に私は顔を歪ませて古畑さんを見た。


「真希様は自覚が足りないです。」


腕を組んでまるで説教をするかのように古畑さんは私をみた。



「自覚ってなんですか!」


仕事を奪われたことに少し腹を立てて私も強気で言い返す。



「真希様は光瑠様の婚約者…奥様になられるのですよ!」


「っ……」



あまりに古畑さんが大きな声で言うので、私はあろうことか照れて顔を紅くしていた。



私が…奥様…


何だかむずかゆさを感ぜずにはいられないその呼び名に目を泳がせる。


「照れていらっしゃる場合ではありません!」


と尚も私に説教を続ける古畑さんの声にビクンと身体が震える。


「て、照れてなんかないです!」


と紅い顔で言っても何の説得力もない…。


「…有川家の奥様になられる方がそんなメイドの真似事など…」



少し、卑下したような古畑さんの保守的な考えに私は違和感を持った。



バカみたい。

光瑠さんもそうだけど、この人たちは一体今が何世紀だと思って暮らしているのだろうか…



「そんな言い方はメイドさんたちに失礼です!」



堪えきれずに叫んでしまう、自分も、反省の余地があるが…

あちゃ…と思いながらも一度言い出してしまえば言葉は止まらない…。



「みんな同じ人間で平等なのだから、そんな風にメイドさんたちを蔑視するような発言は許せません!」


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