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近くて遠い

第23章 信頼関係

しばらく沈黙が続いた。



だけどそれは全然嫌な時間じゃなくて…


むしろすごく和やかな、

ずっと続いてもいいって

そう思える時間だった。



「……真希」



しばらくして、光瑠さんは私の頭に顎を乗せたまま私の名を呼んだ。



「…はい」



何の波もない。


そういう静かな時間…。



「10分で…恋に落ちることが、あると思うか…?」



「えっ…?」



その問いにドキッと胸が鳴った。


「それは、つまり…」



「一目惚れ…ってやつか。」



と光瑠さんが言葉を続ける。



一目惚れっ…



ふと

雨に濡れた要さんの顔が浮かんだ。




さまよう私を

力強い手が掴んだあの日───



「……10分も…かからない。」


「ん?」


光瑠さんは
顎を私の頭から離すと、私の顔をじっと見つめた。



「何て言った?」



何となく、
目が見れなくなって、私は目をそらした。



「……きっと恋に落ちるのは一瞬のことで…だから、10分もかからないんじゃないかと…」


───────多分ですけど


と言葉を添えた。



「そういうものか。」



と言って、光瑠さんは背もたれに寄り掛かった。


突然どうしたんだろう


なんでそんな事を…



「…なんで、そんなこと聞くんですか?」


ドキドキして、

要さんの顔がちらついて…

それが光瑠さんにバレているような、そんな気がした。


「ん、いや、ちょっとな。」


光瑠さんは言葉を濁して、また大きな口を開けて


ふぁあ、と欠伸をした。


浮かんだ涙が、

目の端に溜まって、キラキラ光っていた。



「欠伸が止まらん。」


少しはにかんで、光瑠さんが私を見た。



「時間があるなら、少しお部屋で眠ったらどうですか?」


こんなにも激務で身体は大丈夫なのだろうか…


これからパリにも行くと言うのに…

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