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近くて遠い

第4章 決意

「まぁ、それは…本当に申し訳ありませんでした。
この桜子は先月入ったばかりですの。
これから接客を教えようと思ったものですから…。
有川様、次いらっしゃるときまでに接客をみっちり彼女に叩き込んで起きますから、今日のところはどうかお許しになって。」


幸ママは
優しく微笑みながら、角が立たない言い方をして有川様をみた。



幸ママ…




プロだ…と思った。



この前、
拓也さんが『オーナーはすごい』って言ってたっけ…



普通キャバクラではクラブと違ってママを置かないらしい。


それでも、幸ママはオーナーを兼ママとして仕事をする体勢を選んだ。


高級なのにも関わらずこのお店がこのキャバクラ激戦区で好調に売り上げを上げている理由は、まさしくこのことにあるだろうな…



私は前、拓也さんがそう力説していたことの意味が、分かった気がした。



「……今日は帰る。」



さっきまで横柄に叫んでばかりいた有川様までが、うそのように穏やかになって、ソファーから立った。



良かった…



「おい!」



安心したのもつかの間、
有川様は私の腕をまた食い込みそうなほどの力で掴んだ。



「は、はい…」



驚きと腕の痛みに顔を歪ませていると、有川様はニヤリと笑った。



「次は必ず酒を入れろ。」




有川様はそう言って腕を乱暴に放し、部屋から去っていった。

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