テキストサイズ

不器用なタッシュ

第15章 対決

決戦に備えて、身支度を整える。


相手は芸術的に、小綺麗な奴だ。
悔しいけど、それは認めてやる。

それに世間一般的にも好感度がある、エリートサラリーマン。

スーツ姿も様になっていて、ぱっと見非の打ち所がない――――。


憎い恋敵の相手のことを考えながら、スタンドミラーに映る自分の姿をみやる。


Tシャツにシャツを引っ掛けただけのカジュアルな服装。


カジュアルと言えば聞こえが良いが、単に動きやすいだけの格好だ。

スーツなんて、授賞式の時に着たのしか持っていない。

最近は取材とかも増えたから、昔ほどいい加減ではないけど、だからって根っからの洒落っ気がある訳でもない。


あいつが同じような恰好をしたら、見栄えするんだろうな――――。


考えれば考えるほど、腹が立ってくる。


人間って、何て不平等なんだ――――。

何であいつは、沢山のものを持っているんだ。

容姿も人脈も地位も――――全て持っているじゃないか。
なのに――――

「ちっ! 何で、香織なんだよ!」

俺の唯一の『自信』まで奪っていこうとしやがる。


抑えられない怒りに任せて、スタンドミラーを蹴っ飛ばしそうになったが寸前で堪えた。


拳にした両手にグッと力を込めて、唇を噛む。

「香織は、俺のだ」

そうだ――――香織と『お腹の子』は俺のものだ。


まだ味方をしている運を信じて、俺はあいつの職場に電話を掛けた――――。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ