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不器用なタッシュ

第15章 対決

「ちっ、時間通りかよ」


遅刻されるのも癪だが、絵に描いたような優等生ぶりも気に入らない。

まぁいくら例えでも俺なら絶対、こいつを描くことないけどな。


思いっきり仏頂面で腕を組んで踏ん反り返っている俺の前に、あいつは爽やかな笑顔で声を掛けてきた。


「待たせて悪かったね。ここ、座るよ」

「あぁ……」


時間通りに来てサラッと社交辞令を言ったこいつは、年季の入ったソファーの奥にビジネスバッグを置いてから、流れるような動きでソファーに腰を掛ける。


何もかもがスマート過ぎて、腹ただしいを越えて異世界の生物に思えてきた。


こいつが落ち着いた頃を見計らって、店員の女性がお絞りと水を持ってくる。


少し照れ臭そうにテーブルにお絞りと水を置く店員に、こいつは満面の笑顔で――――

「いつものでお願い」

「はい!」

――――オーダー、かっ!?

何だよ今の! 
ツーカー過ぎるだろ! 
てかこの店員、明らかにこいつに惚れてね?


このやり取りが、少し鎮火し掛けた俺の怒りを再出火させた。


これから対峙すると分かっていながらも、こいつは普段と変わらないとでもいう感じで、のんびりと水を飲み始める。


「ふぅ~。取引先でずっと喋っていたから、喉渇いてさ~」

「……あんた、俺のこと舐めてんのか?」

「ん? どうしたんだい、嘉之くん」


こいつ――――!!


怒鳴りつけてやろうかと思ったが、一瞬身体が竦んだ。


小田切は親し気に名前呼びをしてきたけど、その声は明らかに対決の意志がこもっていた――――。

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