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不器用なタッシュ

第16章 切望

まるで事件でも起きたみたいに部屋の中は荒れて、家具は倒れ、グラスも割れて床に散乱している。


作業部屋の作品も数枚、バラバラに破かれていた。


そう全て――――俺がやっておいた。


さて、これから一芝居打たなきゃならない。

性分には、合わないけどな――――。


「イタリアなんて……行かない……」


もぬけの殻になった――――振りをして、力が抜けたように床に座り込む。


そんな俺に、安岡は慌てて駆け寄ってきた。


「何言ってんだよ! 香織ちゃんと、また何かあったのかっ!?」


流石、安岡――――腐れ縁なだけあるな。

こういうところ、嫌いじゃないよ。


「香織……香織は、他の男の所へ行きやがった……。やっとイタリアに一緒に行けると思ったのに……」

「えっ! 香織ちゃんが? 他の男って!?」

「俺がイタリアに行けるように必死になっている間に……訳わからねぇよ」


本当に理解不能だ――――小田切とのこと思い返すと、本気で腹が立って暴れたくなるぜ。


だけど今は、怒りより『悲しみ』を表現しないとだ――――。

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