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不器用なタッシュ

第16章 切望

カンバスに絵の具を落とすように、自分を悲しみの色に染めていく。


「香織……香織が居ないんじゃ、イタリアに行く意味なんてない……。生きている意味すらないっ!」


ダンッ!

叫びと一緒に、握り拳を床に思いっきり叩きつける。


感情的になっているふりをする俺を安岡はなんとか宥してきた。


「嘉之! 落ち着けよ。香織ちゃんがもし他の男の方に気持ちが向いたとしても、それって何かしら訳があったんじゃないのか? ちゃんと話を聞いたのか?」

「話したくても……香織、会ってくれねぇもん。相手の男も邪魔してくるし……」

「えぇ~。香織ちゃんだけはと思ったのに……」


そうだな――――俺も香織だけはと、思っていたさ。

だけど今まで見たいに『やっぱりな』って言って、簡単に離れられることは出来ない。

香織だけは、出来ないんだ――――!!


「もう二度と香織と会えなくなるくらいなら俺……死ぬ。死んだ方がましだ……」


計画上の台詞だったが、言いながら本気でそう思えた。

これから先、香織を失って生きていく人生なんか想像したくない――――。


物騒なことを吐きながら震える俺の肩を安岡が掴んできた。


「冗談でもそんなこと言うなよ。今まで色々あったけど、乗り越えてきたじゃないか!」

「安岡……」


色々か――――あったな。

でも香織は、今までの色々とは次元が違うんだよ。

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