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不器用なタッシュ

第16章 切望

だがしかし――――安岡の良いところは、案外仕事が早い。


数十分後、約束通り安岡は香織を連れてきたのだ。


やたら焦った声を響かせて、香織は登場した。


「はぁ! 安岡さん! 嘉之は?」


威勢よく部屋に入って来た香織は、のんびりと脚と腕を組んで椅子に座っている俺の姿に、瞬く間にして怒りを露わにする。


因みに演出で散らかした部屋は、安岡がいない間に片しておいた。


「はぁ……やっぱり、嘘だったの……」

「イヤ……渡辺さん、ごめんね。でも、生きてる意味ないって言ってたのは本当で……渡辺さんと話し合いなって言ったら、自分じゃ会ってもらえないから、仲介して欲しいって頭下げられて。嘉之に頭下げられたの初めてで、俺も何か必死になっちゃって……」 


安岡からの話を香織がどう捉えたか知らないが、俺の様子が気に入らないようだ。


そして利用されたと覚った安岡は、罪悪感に駆られたのか一気に顔色が悪くなっている。


てか、『やっぱり、嘘だった』って、酷くねぇか?

俺がどんな思いでここまでしたと思ってんだよ――――そう言ってやりたかったが、安岡は確実に香織の味方に付きそうだから分が悪い。

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