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不器用なタッシュ

第16章 切望

安岡に出て行って欲しい、俺――――。
安岡に残って欲しい、香織――――。

二人の願いに、当の本人はどうするか――――!?


「わぁ~! 分かった! とにかく近場にいるから、何かあったら呼んで。二人の事だろ? 二人で、しっかり話し合えよ! 嘉之、ちゃんと渡辺さんの言い分聞けよな!」


安岡の答えは、俺に軍配が上がった。


よし――いい決断だ、安岡。


想い通りになって、口元に微かに笑みが浮かんでしまう。


「分かったよ……」

「じゃあな! 渡辺さん、ごめんね本当に……嘉之の我が儘に付き合わせて。宜しく頼みます!」


更に熱い友情を貫く安岡は、ご丁寧に香織に頭まで下げて部屋を出ていった。


バッタン――――ドアが閉まる音を確認するのと共に、さっきまで演じていた胡散臭い俺が消えていく。


やっと、素に戻れる――――。


俺は酒を飲もうと、冷蔵庫に向かった。


「さぁてと~香織、何か飲む? もう、アルコールも大丈夫なんだろ?」


嫌味も含めて、香織に問い掛ける。


「……分かったの」


先日の喫茶店での小田切の台詞――――。


『嘉之くん……この香織の姿見て何とも思わないの?』


妊娠していたら産む決心までしていた香織が、あの日ヒールがある靴で、全力で走って店まできた。


だから小田切は『この香織の姿を見て、妊娠しているとでも思っているの?』って言っていたんだろ――――。


そう考えただけで、ますます小田切が憎らしくなった。

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