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不器用なタッシュ

第16章 切望

「煩い! 安岡だって見て来たなら、分かるだろ!」


分かってくれよ! ――――安岡、せめてお前だけは!

俺がどんな思いでここまでやってきたのか――――!

香織とのことだって、一番応援してくれていただろうが!

安岡にも言いたいことは、沢山ある。

だけど素直になれない俺は、思っているままを言葉に出来ない――――。


「あぁ……分かるさ。お前が頑張って来たのも……渡辺さんが頑張っていたのも知っている」


――――そうだ、お前なら知っているだろ。


「それが数ヶ月会っていない間に六年間を全部壊されるんだぞ! やっと環境を整えて、これからって時に!」


――――だから俺たちのこと、また応援してくれよ!


余りの理不尽さに怒鳴ることしか出来ない俺に、安岡は悲しいくらい冷静に返してきた。


「環境じゃなかったんだよ。変わらなきゃいけなかったのは、嘉之……お前自身だよ」


――――安、おか?


投げ掛けられた言葉に、俺の立っている空間が一気に真っ暗になった。


眩暈に襲われそうな感覚に堪えながら、意地を張り続ける。


「はっ、俺が!」

「渡辺さんは整った環境をお前に与えてやりたかったから、一生懸命してくれた。でも、お前から一番望んでたのはステータスじゃない」

「……分かってるよ」


――――止めろ――――『それ』には触れてくるな。

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