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不器用なタッシュ

第16章 切望

「持って行けば……どうせ企画が通れば、ケリ付くし……」

「企画……」


あぁ――――まだ俺には大きな砦が残っている。

『イタリア企画』だけは、小田切だって関与出来ない――――。


香織は凄い不安げな表情を浮かべたけど、興信所の書類を必死にかき集めてバッグに押し込んだ。 


そんな俺たちのやり取りを見ていた安岡が、またしゃしゃってくる。


「嘉之……もう終わりにしろよ」


は? ――――何を言い出してんだ?


「何だって!」

「安岡さん……」

「もう限界じゃないのか? 修復するには無理があるよ。今日で終わりにしろよ、嘉之」

「安岡……どうゆうつもりだよ……」


よりにもよって、何でお前に『終わり』を告げられなきゃならないんだよ。

いくら腐れ縁でも、そこまで言う権利ねぇだろ!


――――頭の片隅でそう叫んだが、『親友』の言葉は思った以上に俺に衝撃を与えていて、何も言い返すことが出来なかった。


呆然と立ち尽くしている俺に安岡は寂しそうな顔を向ける。


「本当は二人の結婚式に参加したかったけどな……。でも、このままだと嘉之の為にならない。一回本当の痛みを味わえよ」


――――俺の為にならない?
――――痛みを味わえ?
――――意味不明なんだけど?


「安岡……」

「行こう……渡辺さん。今まで嘉之の為に頑張ってくれて、ありがとう……」


安岡は『謎の言葉』を残して、勝手に香織を連れて部屋を出ていった――――。

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