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不器用なタッシュ

第17章 強行突破

『何?』


先日、あんなことがあったのに、安岡の声は普段と変わらない。


「安岡、こないだは悪かったな」


本当は悪かったなんて思っていないけど、今は一応建前として言っておく。


実際あの後、安岡はマンションの部屋に戻ってきて、俺が落ち着くまで付き添っていた。


それは一人でいるよりも、安心感はあったかもしれない――――。


逆の立場だったら出来ないだろう。

そういうところは、まぁスゲェとは思っている。


『ははは、ちゃんと反省しろよな! で、突然どうしたんだ?』


明るく笑い返してくる安岡をまた利用することになるが、これも俺のためだと思って騙されてくれよな。


良心の呵責が少しでも痛んだら良かったのかもしれないが、この時の俺の中にはそんなもの存在していなかった。


「イタリア行が、早まったんだよ」

『えっ! そうなのか? じゃぁ送り出し飲み会は出来ないか~』

「いいよ……そんなの。面倒臭い」

『お前ならそう言うと思ったよ。でも無事にイタリアに行けるんだから良かったじゃないか』

「あぁ……そうだな」


無事――――か。

無事って、意味あるのか?


俺には、香織が居なければ全て『無意味』だ――――。


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