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不器用なタッシュ

第17章 強行突破

安岡からメールが届くのに、一時間も掛からなかった。


『香織ちゃん、今日絵を取りに行ってくれるって!』 


本当にお前、使える奴だよな。

出来ることならこれからも、長い付き合いをしたいけど――――さて、許されるかな?

これから俺がやろうとしている本当のことを知ったら、安岡はどうするだろうか。


『サンキュー! 助かった!』――――安岡には、端的に礼をメールで返しておいた。


「さてと……後は待つだけだ」


俺は独り言を囁きながら、サイドボードの引き出しから鍵を取り出す。


この鍵は――――香織のアパートの部屋の鍵。


以前ホテルに呼び出した時、香織が動けないでいる間に速攻で作っておいた。


ここで役に立つ日がくるとはな――――。


掌の鍵を軽く上に投げて、空中でキャッチする。


握った鍵をパンツのポケットに突っ込み、速足で香織のアパートに向かった。


ニュービートルに乗り込み、エンジンを掛ける。


然程交通量がない道を颯爽と走り抜けていく。


これから大きな勝負に打って出るのに、俺の心の中は妙に凪いでいる。


「この町も、もう見納めだな」


殆ど部屋に籠ってばかりだったから、特に深い思い出がある訳じゃないけど、何となくそんな風に言ってみたくなった――――。


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