イケない同棲生活
第7章 直弥
「…ッうっあ…ッああ…ッ」
透明の膜で視界がぼやけて、目の前が見えなくなった。
「ひっくッああッ…ま…ひろぉ…ッ」
涙を含む声で、彼の名前が上手く呼べなくなった。
どうして好きになってしまったんだろう。なんで私は、苦しい恋しかできないんだろう。
そう後悔しても、彼への想いは褪せることなんてなくて。
涙と一緒に流れて欲しいのに、それはどんどん膨らんでいくばかり。
彼の仏頂面も。
時折甘い言葉を紡ぐ、低い声も。
端正な横顔も。
広い背中も、
離れた今でも、鮮明によみがえる。
「好き…ッまひろッ好き・・・・ッうッふぅ…ッ」
とうとう立つことも耐え切れなくて、膝から抜け落ちた体。
そのまま顔を手のひらで覆って、私は泣いた。
干からびるほど涙を流して。
子供みたいに声をあげて。
道行く人の視線など気にする暇もなく、ただ泣いた。