イケない同棲生活
第7章 直弥
ジャリ…ッ
「…楓……?」
ふと、背後から私の名を呼ぶ声が聞こえた。
それは探るような、訝しむ声だったけれど。
低くも高くも無い、
「楓?!どうしたの?!」
いっつも大袈裟な声ばかりあげる人なんて、
「な…おや」
この人しかいない。
「こんなとこで何してんの!体冷たくなってんじゃん!」
「な、直弥、」
私と同じ視線になるようにしゃがみこんだ直弥は、自分の着ていたコートを脱いで私の肩にかけた。
ふわりと洗剤の懐かしい香りが鼻を掠めて、本当に彼がいることを実感する。
「ほら、立てる?ここはちょっと目立ってるから」
「う、うん。ごめん、」
暗闇であまり顔は見えないけれど、声色から本気で心配してくれてるみたいで。
まるでまだ別れていないような、そんな錯覚に陥る。
だって、まったく変わってないんだ。
「手ぇ冷たすぎ」
手を優しく握ってくれる所も、涙を指で拭ってくれるところも。寒くて冷たくなった手を繋いだままポケットにいれてくれるところも。
大好きだった直弥のままで。
私は突然の彼の登場に動揺した。