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霧と繭

第1章 ―

 ファミレスに着いたのは一時頃だった。昨日よりも混んでいて、私は俊二の姿を見つけると前の席に座った。浩美は今も自分たちを見ているのだろうか。俊二が店内を見回しので、私も一緒に店の中を見回した。よくよく考えれば、あんな画像を添付したメールを送ったのだから、浩美は自分から監視をしていると宣言しているものなのだと、私はそこで気がついた。そうだとしたら、今日もここに来るのだろうか。見つかってしまうという考えはないのだろうか。私の頭にそんな考えがよぎった。

 結果からいうと、浩美は見つからなかった。さすがに今日までは来ていないようだったと、私は安心してしまった。俊二はだいぶ浩美のことを怖がっていた。午前中は業者に頼んで家のカギ穴を変えてもらったそうだった。彼は私に新しいカギを渡してくれた。それから今夜、家に来ないかと誘われた。明日は学校だったけれど、そんなのお構いなしだった。俊二はひとりでいるのが怖かったのだろう、もちろんそれは私もだった。それに何よりも彼には、久々に肌を合わせたいという気持ちがあったのだろう。

 私は翌日の昼頃に、俊二と一緒に大学へと向かった。一時限目と二時限目の授業はさぼったけれど、そんなのはどうでもよくなるくらいに昨夜は楽しかった。浩美さえいなければもっと幸せになれたのに。今日、浩美は学校にきているのだろうか。人混みに紛れて私と俊二のことを監視しているのだろうか。そう思うとなんだか無性に怖くなって、楽しい気分はどこかに散ってしまった。

 家に帰った時、私は堪らなく叫び声を上げてしまった。私の家の前に生ゴミが溢れかえっていた。汚らしい臭いに、吐き気が胸を飛び超えてやってきた。浩美の仕業だ、いったい何を考えているのだ。私の中で恐怖の感情が渦巻いた。私はマスクをしてゴム手袋はめて、しかたなく生ゴミを片付けた。浩美は私の家を知らないはずだった。どうしてここまでやってきたのか。やはり自分のことをつけているのだろうか。私は恐ろしくなって、俊二が一緒でないことが心細くなった。
私はポストから夕刊と郵便物を取り、家に入ってカギを掛けた。窓も全て閉まっていることを確かめた。その日は一歩も家から出ないつもりだった。本当は今すぐにでも俊二の家に駆けこみたかったけれども、さすがに二日も家に厄介になっては迷惑かもしれない、と私は考えた。

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