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霧と繭

第1章 ―

 郵便物の中に、DVDが入っていた。真っ白なDVDで、ラベルには何も書かれていなかった。このDVDを用意したのは浩美だ、もはや疑いもしなかった。また猫の死体でも映っているのだろうか、こんなもの、見る価値なんてない。そうは思っているのに、どうしてか私はDVDを再生してしまった。

 大きく息をのんだ。そこには私と俊二が映っていた。それも、背景は俊二の家の中だった。前の日の夜の映像だった。私は恐怖で取り乱し、すぐに停止ボタンを押した。体ががくがくと震えるのを止めることができなかった。先ほど確かめたけれども、もう一度家中のカギを確認して回った。

 それからすぐに俊二に電話をした。俊二はすぐに電話に出てくれて、何があったんだと力強く聞いてくれた。私は家の前に生ごみがまき散らかしてあったこと、それから気味の悪いDVDのことについて話した。電話の向こうで俊二は息をのんだ。そして、ちょっと待っててと言って電話を置いた。冷や汗をぬぐいながらしばらく待っていると、俊二が興奮気味に話を始めた。なんと彼の部屋に隠しカメラが仕掛けてあったそうだった。恐らくは家のカギを取りかえる前に、浩美が部屋に侵入して仕掛けておいたのだろうと俊二は説明した。俊二が大学に行けば家は無人になるのだから、浩美にとっては造作もないことだったに違いない。私から切り出したのでもないのに、俊二は今すぐ私の家に来てくれると言った。ひとりは心細かったから、とても頼もしかった。私は高鳴る胸を抑えて、俊二がやってくるのを待った。

 ところが、一時間経っても俊二はやってこなかった。時計を見てみたら、もう九時を過ぎていた。俊二の家から三駅でここには来れるはずだし、どうもおかしいと私は思い始めていた。電話をしても出てくれないのは電車の中だからなのかもしれないと自分をごまかしたが、メールに返信してくれないのは説明がつかなかった。私がどうしようかと思っていると、玄関のチャイムが鳴った。ああ、やっと俊二が来てくれた。私はすぐにドアを開けた。

 そこには誰もいなかった。私は辺りをきょろきょろと見回したけれど、どこにも俊二はいなかった。代わりと言ってはなんだけれども、またもポストの中にDVDが入っていた。私はなんだか胸の中がざわめくのを感じて、DVDを取るとすぐに家の中に入ってカギをかけた。

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