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霧と繭

第1章 ―

 再び俊二に電話をかけた。自宅の電話にも、携帯電話にも。しかし何コール待っても、俊二は出てくれなかった。私の胸のざわめきが更に増すのを感じた。何か俊二の身に起こったのだろうか。心配しながら、私はテーブルに置いたDVDを調べてみた。前のものと同じ種類のDVDだったけれど、今度は白いラベルに真っ赤なインクがべったりと付着していた。その時の私には、それが血であることに気がつかなかった。これは浩美がポストに入れたものだ。インターホンを押したのも浩美だ。さっき浩美が私の家の前まできたのだ。私はそっちばかりに気を取られていて、インクだと思ったものが血であることに気づく余裕なんてちっともなかった。

 俊二はどうして電話に出てくれないのか。浩美が彼に何かをしたのか。警察を呼ぶべきなのか。私はあれこれと考えながら、DVDを観なくてはという気持ちにかられて、それを再生することにした。

 またも俊二の部屋が映し出された。今度はさっきと違う位置にカメラが置かれたようで、映す角度が違っていた。ベッドの上で俊二が寝ている。そのすぐ横には浩美がいた。どういうことだ。これはいつ撮影された映像だ。そう思っていると、浩美がこちらを見てきた。私は身震いをした。浩美の髪はぼさぼさで、頬はげっそりと痩せこけていた。着ている服はよれよれのパジャマだったこれがあの綺麗だった浩美だろうか、まるで別人のようだった。彼女は不気味に笑った。病院から抜け出してきた骸骨のようだった。

 つと、私の瞳から涙があふれた。悲しみの涙と、恐怖の涙の両方だった。俊二の左の手首から、ドクドクと真っ赤な血が流れていた。手首だけではない、首筋からも血が流れている。俊二は目を開いていたが、初めから少しも動いていなかった。まばたきもしていなかった。いびつな表情で、天井を見上げていた。

 浩美は静かに、ベッドで眠る俊二に口づけをした。私に見せつけるように、長く長く。

 私は画面から目を離せなかった。浩美はもう一度こちらを向くと、勝ち誇るように笑みを浮かべた。そこで映像が終わり、画面には砂嵐が流れ始めた。

 私はどうすることもできず、静まりかえった部屋でただただ砂嵐を眺めていた。
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