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やっと、やっと…

第10章 甘い記憶




女の子を見送った後も
智己は手の上にヒトデを乗せたまま
動かないでいた



(あれ?やっぱり苦手なのかな?)



そう思い


「ヒトデ、怖いの?」



さっき女の子に言ったように
智己に聞いた




智己は無言のまま
私に救助の目を向けてきた






(さっきまではあんなに平気そうだったのに・・・)





そう考えながらヒトデを持ち上げ
水槽の中に静かに戻した





隣にしゃがんでいる智己を見ると
ほっとしたような表情をしている






「やっぱ怖かったのね・・」






智己の表情に自然と笑みがこぼれながら言った






「そういうわけじゃ、

ないけど・・」






明らかに焦っている





(あの子のために我慢したんだね)




智己の優しさに胸が熱くなる


その思いと同時に
なんだか愛しさのようなものもこみ上げてくる




隣の智己を見ると
恐る恐る、だけど興味津々に
水槽の中を覗いている

まるで小さな子供の様に思えた





(さっきはあんなに優しくて
お兄さんみたいに見えたのに)




そう考えていたその時・・












ふわっ











「――え?」






智己がこちらをきょとんとした顔で見ている






(―――っ!)






気付けば私は
智己の頭を撫でていた









「どうしたの?唯」









「あっ、いや、

智己も良く頑張ったねって

よしよしって・・」




智己のふわふわな髪を撫でながら
自分の行動が恥ずかしくて
下向き加減に答えた




智己の方を上目で見ると
目を見開いて私と同じように顔を赤らめている






「最初から、触れるよ、ヒトデぐらい・・」







(あぁ、私は・・)






私はこんな風に優しい智己が大好きなんだと、改めて感じた






智己の照れた顔も
優しい表情も

全部大好きなんだと
智己への好きな気持ちが溢れてくる







私は今すぐにでも智己の胸へ飛び込みたい気持ちを抑えて





智己の手を握り




「行こっか」






そう言って
心からこみ上げる笑顔を向けた





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