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やっと、やっと…

第10章 甘い記憶




それから俺達は水族館を出て、
近くにあるレストランを目指して歩いた



二人で手を繋ぎながら
堤防を歩く


まだ明るい太陽が海を照らし
きらきらと輝いている





やがてレストランに到着すると
窓辺の席へと通された



俺はピザを食べ
唯はスパゲティを食べている










「・・・ねえ」







唯が不意に話しかけてきた






ピザを食べながら
唯に目線を向ける






「誕生日、おめでとう・・
これ・・・」




唯は少し照れながらも
プレゼントを渡してくれた





「おぉ、ありがとう」




(プレゼントなんて、
よかったのにな・・・)





小さめの可愛らしくラッピングされた包みのリボンを解く





中を見ると

俺の好きなマドレーヌと
さらに包まれたものが入っていた





「ありがと、大事にするね」





中身は帰ってから見ようと思い
またリボンを結んだ






微笑みかけると唯も笑顔だった







(俺の好きなもの、
知ってたんだな・・・)






唯はよく気がつく

俺も唯のことはよく見ているつもりだけど知らないこともまだまだたくさんある



もっと、

もっと唯の事が知りたい



友達としてではなく




恋人として
唯の好きなもの、苦手なものが知りたい
いろんな姿や表情がみてみたい







そう、強く思った








窓から差し込む夕日のまぶしさに
ふと我に返る



さっきまではあんなに明るかった太陽が沈みかけていた




海の向こうで赤い太陽が
輝いている




同じように夕日を見るレストランの客から感嘆の声が漏れる







『綺麗だね』






そう声をかけようと唯の方を向けたが、思わず口をつぐんだ







唯は外を眺めていた


眉を寄せ、目を細め
その表情は悩ましげに見える

いや、泣きそうにさえ見えた







少しでも声をかけたら
今、唯に触れてしまったら

脆く、壊れてしまいそうだった




俺は何も言えず
夕日が沈む様子を眺める唯を
ずっと見つめていた





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