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やっと、やっと…

第11章 人の夢は儚くて





「そっか…

俺はこんなに好きなのに

唯は裏切ったの?」







(殴られる……!)




私に伸ばされる手を見て
そう思い目をぎゅっと閉じた









だけど、

圭介は私の頬を愛おしげに撫でる










(どうして…


なんで、優しいの…?)




その優しささえ恐ろしかった




(何を、考えてるの…?)




目を開けて圭介の目を見つめても
何もわからない


ただ真っ直ぐに
圭介は私を見つめる









「ねえ唯、

俺は唯が好きだよ

愛してる



唯がそんなこと言っても
俺はわかってる


あいつのせいだろ?

だから戻ってきて

ね?唯」






圭介と別れて
智己と付き合い始めて3ヶ月余り



圭介は、
私のことをずっと考えていたんだろう




圭介のことなんて
もう好きにはなれない





恐怖の対象でしかなかった



もう一度、
付き合うなんて
普通なら簡単に断ることだってできた





だけど、


ここで断ったら?







諦めてくれるはずがない



最初からそうだったんだ


あの日、智己が私のこと好きだって
圭介の前で言ってくれた日、

あんなにあっさり
圭介が諦めるはずなかったのに





もっと早く気付くべきだった






私は考えを巡らせ
呆然としていた





智己とは

別れなきゃいけない







私とはもう
関わったらいけないんだ







悲しいはずなのに


涙が出てこない






この人の前では
自分の気持ちが素直に出せなかった







「ねえ、


答えて?唯」




そう私に問う声は

低く、厚みを持っていた





決して否定なんて出来ないように








いつでもこの人の前では
選択肢なんてないんだ









私は静かに

頷いた




体を震わせながら









絶望的な気持ちで
いっぱいになった







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