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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

 むろん、兵助もお民もたった一人の倅を役者なぞにする気はさらさらなかったけれど、そう言われて悪い気はしなかった。
 長屋の連中からも〝到底兵さんとお民さんの子にゃア見えねえな。拾いっ子か貰いっ子じゃねえのかい〟と揶揄されることも、しばしばだった。
 しかし、兵太は紛れもなく正真正銘、お民の生んだ兵助の倅であった。良人もお民も兵太の将来にどれほどの期待をかけていたことか。

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