テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

 いや、たいした人物になぞ、なれなくたって構やしなかった。ただ、元気で生きてさえいてくれれば。役者になぞならなくても、難しい書物が読めなくても構いはしない。ただ、ただ、ずっと傍にいてくれさえすれば、それだけで望むことはなかったのに。
 兵太は旅立ってしまった。あの子の刻は五歳の夏で永遠に止まったままだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ