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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

「おうよ」
 ほどなく返事が聞こえ、兵助が出て言った気配がした。表の腰高障子が閉まる音。
 そして、続いて、ドウと何かが倒れる派手な音がして、お民はハッとした。
「お前さんッ?」
 お民は慌てて腰高を開け、外へ身を走り出た。向かい合って建つ長屋に挟まれた狭い路地に、小柄な兵助の身体が真横になって倒れている。
 お民の口から、咆哮のような悲鳴が洩れた。

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