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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

「そりゃア、そうだが、聞いちゃいられなかったんだよ。だって、あの先生らしくもなく、治療する前からもう駄目だって諦めてるような口ぶりだったじゃねえか。それを聞かされてるお前の身になったら、たまらなくなっちまって、それでついカッとなって、さ」
「―私のために言ってくれたんだってことは判ったよ。それは嬉しかった、ありがと」
 いつもなら、絶対に言えない科白だ。
―お民さんの口から礼の言葉が出るなんざァ、こいつはお天道さまが西から昇って東に沈むぜ。いや、紅い雪が降るかな。

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