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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第5章 恋花二つ目~恋紫陽花~壱

 こんなときでなければ、源治の口からきっとそんなからかい混じりの言葉が返ってくるに相違ない。
 お民は早口で言うだけ言うと、さっと身を翻し中に入った。
 源治は、そんなやはり常とは違うお民の後ろ姿を見送り、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
 日中は初夏を思わせる陽気だが、まだ夜は冷える。ひんやりとした夜気が兵助の身体に余計に障らねばよいがと案じてしまうのは、お民だけではなく、源治も同じであったろう。

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