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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 いっそのこと、兵助の後を追って近くの川に―兵太の生命を呑み込んだあの川に飛び込んでみようかと思うけれど、いざとなると、それもできなかった。そうなのだ。源治には偉そうに、言いたい放題、さも悟ったようなことを言ってるくせに、自分は川に飛び込む勇気一つない、―そんな意気地なしの女なのだ。
 お民の前には、小さな机がある。机の上には小さな白木の位牌がひっそりと安置され、その前に線香の細い煙が頼りなげに揺れていた。

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