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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 長屋の前の路地裏を歩きながら、源治は懐手をして空を仰いだ。
 菫色の夜空に、頼りなげな細い月が浮かんでいる。今夜は雲も多く、からりと晴れ渡った月夜には程遠かったが、月明かりで歩るまに不自由はしなかった。雲に今にも閉ざされるように浮かんでいる月は、まるで辛うじて夜空に引っかかっているようにも見える。
 それにしても、お民は一体、どこに行ったのだろう。こんな夜分に、女が一人で外をうろついていたら、それこそ物騒だろうに。

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