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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 お民が行きそうな場所を考えてみても、心当たりは思い浮かばない。
 源治は我知らず苦笑していた。考えてみれば、お民のことを、源治は何も知らない。
 源治がいつも見ていたお民は、陽気で朗らかで、笑顔の絶えない女だった。源治を見れば、母親か姉のような口ぶりで小言を言う。しかし、それが少しも煩いと思わなかったのは何も源治がお民に惚れているからだけではない。あの女は言いたい放題言っているように見えて、その言葉には実がこもっていた。

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