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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 源治は和泉橋まで行ってみるつもりだった。確たる理由があるわけではなかったが、昨日もお民はあの場所で泣いていたのだ。
 もしかしたら、お民にとって、あの橋のたもとは特別な意味のある場所なのかもしれない。そういえば―、お民と兵助の一粒種の兵太はあの川に落ちて、溺死したのだった。
 お民にとって、あの川は倅の生命を呑み込んだ怖ろしくも哀しい場所なのだ。そんな川べりに佇み、一人で泣いていたお民の胸中を改めて思い、源治は居たたまれなくなった。

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